「深夜の魔術師」（横溝正史） | ラバン船長のブックセイリング | 少年が大活躍、その分、由利･三津木が大失態

少年が大活躍、その分、由利･三津木が大失態

「深夜の魔術師」（横溝正史）
（「横溝正史少年小説
　　コレクション③夜光怪人」）

「深夜の魔術師」（横溝正史）
（「横溝正史探偵
　　コレクション②深夜の魔術師」）

国家的発明を為した
柚木子爵の屋敷で
催される仮装舞踏会。
しかし、その発明を、
怪人･金色蝙蝠が
狙っているという。
柚木子爵はその怪人の仮装で
登場するが、もう二人、
金色蝙蝠に扮した人物が現れる。
そのとき由利･三津木は…。

柏書房による横溝正史少年小説
コレクションシリーズ刊行により、
横溝ジュヴナイルの人気が
再燃してきました。
第3弾となる｢夜光怪人｣に
収録されている一篇であり、
長編ジュヴナイルとしては
｢幽霊鉄仮面｣に続く第2作目
(1938年発表)となる作品です。

【主要登場人物】
金色蝙蝠
…巷間を騒がせている怪人。
　髑髏仮面、深夜の魔術師とも
　呼ばれる。
柚木俊彦
…無音航空機を発明。
　設計図を秘密の場所に隠す。
柚木弥生
…俊彦の娘。
　設計図を見つけ出そうと奔走。
青野
…柚木子爵の助手。
丹羽百合子
…女優。金色蝙蝠に殺害される。
黒河内晶子
…女優。金色蝙蝠に操られる。
古館譲
…探偵小説好きの少年。
ニコラ牧師
…柚木子爵と縁のある教会の司祭。
磯谷鈴江
…足の不自由な少女。
等々力警部…警視庁警部。
三津木俊助…東都新聞記者。
由利麟太郎…私立探偵。
※三津木の所属は、他の作品では
　新日報社となっている。

本作品の読みどころ①
ジュヴナイルらしい少年少女の冒険
ジュヴナイルですから、当然
少年少女が活躍する必要があります。
本作品では古館譲少年が大活躍します。
眠らされていた由利･三津木を発見し、
救出したかと思えば、
水攻めに合っていた由利･三津木、
そして弥生を救出、
さらには最終場面で大逆転の一手を
見事に放ちます。
後の作品に登場する御子柴少年が
まったく霞むほどの大活躍です。
もちろん少女としては弥生が活躍。
彼女の冒険も
ハラハラドキドキさせられます。

本作品の読みどころ②
その分、由利･三津木が大失態
大人向け作品でも
犯人に出し抜かれることの多い
由利･三津木コンビですが、
ジュヴナイルものではその傾向に
拍車がかかるようです。
今回は金色蝙蝠に拉致･監禁された上、
デパートのショーウインドウに
晒し者にされるという大失態。
いかに古館少年に
花を持たせたとはいえ、
ふがいないことこの上なしです。
でも、
それも一つの読みどころでしょう。

本作品の読みどころ③
怪人の正体やいかに!?
当然、怪人の正体は
関係者の中の意外な人物です。
ジュヴナイルもので怪人を設定すると、
その正体をどうするかが
大問題なのですが、
本作品ではしっかりと
読者の裏をかくことに成功しています
(もちろん読み進めるうちに
判断がつくのですが)。

乱歩の場合、
どんな奇天烈な怪人を創り上げても、
その正体は二十面相ということで
お茶を濁せるのですが、
横溝の場合は一作一作、
丁寧に人物配置をしていかなくては
ならない分、大変な作業なのでしょう。

ジュヴナイルとしての完成度の高い
本作品ですが、
旧角川文庫には収録されていません。
なぜなら本作品は
1955年に｢真珠塔｣へと改作され、
そちらの方が収録されたからです
(こちらは金色蝙蝠が
宝物を盗み出すという
怪盗らしい働きをしています)。
2004年に出版芸術社｢横溝正史
探偵コレクション｣に収録され、
日の目を見ることとなりましたが、
このたび｢横溝正史
少年小説コレクション｣にも
収録されたのは喜ばしい限りです。
みなさん、
来年の横溝正史生誕120年に向けて、
横溝ジュヴナイルを
読み尽くそうではありませんか。